純米@大吟醸

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37:ベルリンの思い出

 ベルリンへの到着は終着駅ではなかった。

 つまり、降りないと次の駅まで運ばれてしまうということ。よりしっかり駅の表示を見て、アナウンスがないか聞いて、車掌さんが歩いてきたら聞いておかないとならなかった。そうでないと、深夜の知らない街を彷徨うはめになる。

 外は真っ暗、駅のホームですら日本とは違うムードのある暗い照明だ。こんな中を歩いたら転んだり、つまづいたり、ホームに落ちたりする人がいそうだけど、ヨーロッパの人はそういうことは自己責任なんだろう。あと、そんな人を見つけたら手を貸す。そんなことを考えている間に電車はガシャンとまたひとつの駅について、そしてそこが終着駅だと言われた。

 えっ?なんで?

 終着駅って素敵な言葉。東京にいると終着駅があまりない。かつての上野駅東横線の渋谷、あとは井の頭線くらい?だから、あのハリーポッターみたいな、電車が行き止まりで止まって待っているホームに走っていく、みたいなことに憧れていた。ヨーロッパにはそれがたくさんある。でもこれは違うでしょ。正直焦った。

ZOO駅

 ベルリンではZOO駅という場所に降り立つ予定だった。ツォー駅と読むらしい。意味は英語と同じで動物園。近くに動物園があるのだろう。練馬の豊島線駅みたいな感じ。

 到着が夜になってしまったのは仕方がない。ホテルもこの近くに予約していて、到着がいつになるかわからないことはトレレボリの船から電話をしておいた。冬は暇らしく、ホテルの方もユルユル。

 そんな感じで準備万端だったのに、着いたのは別の駅。別の大きな駅か?と思いきや、それも違うみたい。ドイツの大きな駅は中央駅と呼ばれていて、駅名にHBFが付くことは把握していた。私たちが着いた駅にはそれがなかった。

 正直な話、この駅がどこだったか覚えていない。ツォー駅から見て北東の駅だったと思う。深夜0時を過ぎているのに駅には人が多く、なぜ集っているのかわからないイキった若者が闊歩していた。この時は自分も若者なのだけど、この辺の若者はガタイがいいし、尖った格好をしているから怖かった。

 乗り換え案内もGoogle Mapもない時代だから、頼れるのは駅にいる人だけ。周りを見ると警察官もたくさん歩いていたから、その方々に聞いてみた。海外の警察官は威厳がある服なのが不思議。その方々に乗り換えを教えてもらい、無事ツォー駅に到着。ホテルは駅からすぐだったけど、雨が冷たくて萎えた。

庶民のパンことカイザーゼンメル

 翌朝はちゃんと朝に起きて朝ごはんを食べた。パンとハムとチーズとヨーグルトとコーヒーのよくある感じの物。なのに「とてもおいしかった」とわざわざ日記に書いてある。ヨーロッパは乳製品が異様においしい。コーヒーもおいしい。元々ヨーロッパから日本に来た物だから当然なのか、プライドなのか。

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 あと「パンがめちゃくちゃおいしかった」とも書かれている。ホテルにあったのはコロンと丸いパン。その後、街ではカイザーロールを見つけた。何も乗っていないシンプルな小さなパンで、確か百円以下。なのにパリパリでおいしい。その辺のお店で適当に買ってもおいしいから、”庶民のパン”と呼んでよく買った。

 本当はカイザーゼンメルというらしい。細かく言うと、オーストリアのパンらしい。カイザーとは皇帝のことだと思う。お手頃でどこでも手に入るから”庶民のパン”と呼んだけど、失礼だったかな。どうしてカイザーゼンメルと呼ばれるのだろう。あと、東京であの味のカイザーゼンメルを買えるお店はないのかな。

真っ黒焦げの教会

 街を歩き始めてすぐ、異様な光景に気づいた。真っ黒く焦げた教会。ボロボロに崩れていて、塔の先端や角が跡形もなくなっている。ベルリンの街は簡素に整っていてきれいなのに、ここだけどうして。こんな痛々しい物を置いたままにしておいていいの?とかなりの衝撃を受けてしまった。

 おおかた戦争の痕であることは想像できた。でも原爆ドームとは違って、こちらは真っ黒。煤で覆われたままでいる。時期は同じはずなのに、爆弾の種類が違うとこうなるのか?または原爆ドームはきれいに清掃をしているのか。これはわからなかった。

 カイザーヴィルヘルム記念教会というらしい。ボロボロの教会に衝撃を受けすぎて、周りの新しい教会に青のステンドグラスがあってエレクトロな世界だとか、モダンな鐘楼がリップスティックと呼ばれていたといったことにまったく頭が回らなかった。

 ベルリンの街は大きい。というか、庶民が自然に威厳を感じるような作りにしていると思う。大きな公園、行進に良さそうなまっすぐ長い道路、高い塔、大きな門。戦前の日本ももしかしたらこうだったのかもしれない。でも、私が知っている日本とは人間の統率の仕方が違うように感じた。

 それにもかかわらず、まん丸のテレビ塔があったりするのがおもしろいのだけど。あとは都市計画の面で風の通り道を計算して作られたという話があった。TOEFLか何かの英語テストの長文読解で出た。S字に流れる川を使って、生活しやすいように土地を機能させる。すごいなと感心して、解答が一瞬遅れてしまったのが懐かしい。東京も見習ってほしかったポイントだ。

真っ黒焦げの大聖堂

 カイザーヴィルヘルム記念教会よりも驚いたのはベルリン大聖堂だった。広い芝生の空間に、ドームを携えた巨大な聖堂。そして、これもまた煤汚れ。今ググるとそうでもないのだけど、私が見た物はもっと真っ黒で恐ろしい雰囲気を醸し出していたように記憶している。雨で湿っていたのか。ベルリンの空襲は日本のものよりひどかったのか。そのままにすることで戦争の記憶を留めさせようとしているのか、いろいろ考えた。

 ただし、中は美しい。祈りのための座席がたくさんあり、ドームから入る光で明るく照らしていた。細かい石の細工と絵。外観と内部の差が激しくて戸惑った。どうやらホーエンツォレルン家の教会らしい。歴史に登場してきた君主の教会ならば、この豪華さや大きさを理解できる。確か地下には一族の棺が収められた部屋があって、入ることができた。ズラッと並ぶ棺に少しワクワクしてしまったのを覚えている。

 

 ベルリンはそこまで北に位置しないのにやたらと寒かった。地面の違いかな。東京にいると感じないけど、足から冷えに侵食される感じ。回復にも時間がかかる。今はもっとデザインや音楽で楽しい街になっていると聞いているし、暖かい季節にでもまた行けたらと思っている。

 

今日の場所は、大吟醸トラベル Google Mapの37番。

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