純米@大吟醸

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112:ヘルシングボリの思い出

 ヨーロッパを電車で旅をした気でいたけど、列車が正しいのかもしれない。電気で動いていることは間違っていないのだろうけど、海外のそれは列車の方が似合う気がする。不思議。

 スウェーデンヘルシングボリ(Helsingborg)という街に行った。行く気はなかったのだけど、ベルリンに行きたいと行ったら寄ることになった。私の旅なんてそんなもの。

 当時は乗換案内アプリがない。トーマスクックという会社が出版しているヨーロピアン レイル タイムテーブルという昔のタウンページの小さい版みたいな赤い時刻表を持って、乗り鉄よろしく自分でルートを決めて旅する必要があった。途中で出会う同年代の旅人や駅のみどりの窓口のような所に行って、オススメの行き方を聞くのも楽しかった。ヨーロッパには学生の旅人、主にバックパッカーがたくさんいたから聞かれる方が見知らぬ人と話すのに慣れていたし、楽しみにしている印象もあった。

 このヘルシングボリ行きは、コペンハーゲン駅のみどりの窓口のおじさまが教えてくれた。

「フェリーに乗ってヘルシングボリへ行って、そこから列車でベルリンまで行くのが楽しいんじゃない?フェリー代もパスの対象だよ」

 と。私たちはその案で行くことにして、コペンハーゲンの港へ向かった。その国の色々な乗り物に乗ってみたいタチだから。

 でも、あの時は焦った。市内で遊んでいたら出発時間が迫っていて、街はすでに夜。時間がないからタクシーで急いでもらった。確か最後の便だったはず。港はそんなに大きくなく、タクシーで乗り付けて、すぐに乗船できる感じだった。だからなのか運転手さんが全然焦ってない。日本人は焦りがちなのかも。

 たぶんだけど、対岸のスウェーデンに住んでいる方々の帰宅時間なんだと思う。フェリーは満員だった。仕事や学校はデンマークでという方が結構いるのかな。島国育ちからすると不思議な感じがする。フェリーは内海だし揺れることもなく、ゆったりと小一時間を進んだ。私は乗り物に乗ると一瞬で寝る人だから、何度もウトウトとする。

 ある時ハッとして外を見ると、キラキラと光る街が迫ってきていた。これがまた美しい。今度は水たまりではなく海に街の灯が写って、本来の何倍も明るく見えていた。水、特に海が近くにある街は素敵に見える。

 ヘルシングボリの街に着いて、まっすぐみどりの窓口へ行った。電車に乗るお金はかからないけど、乗車の予約は必要だったから。窓口にいたおばさまが陽気に教えてくれた。

「この電車はシケでいつ出発するかわからないわよ」
「OKです」
「出発する時は呼ぶから駅構内にいてね」

 日本の駅も便利だけど、ヨーロッパの駅はカフェやレストランやバーやコンビニ、あとシャワールームなんかもあって別の意味でなかなか便利。急いでない私たちは定刻どおりに出発しなくても到着しなくても構わない。でも電車なのに「なんでシケ?」という疑問はスルーしておいた。来る予定がなかったスウェーデンにてワクワクしていたし、土地も広そうな国のこと。風を遮る物がない大地を走るのに強風がダメなんじゃないかなとか、常磐線を思い浮かべてた。まぁ、ここで「なんでシケ?」と質問しなかったことによって、後のミッション インポッシブル体験を書くことができるのだけど。

 次に向かったのは両替所だった。現金がないので、少しスウェーデンのお金に変えようと思ったのだ。デンマークで残ったお金、特に硬貨が既に邪魔だったけど、硬貨を両替してくれないことは学んでいたから言わなかった。なのに、両替所にいた女の子。閑散期で暇だったのかな。同年代っぽくて話しやすかったな。

「えっ、いいよ〜。小銭も全部変えちゃう。出して出して〜♪」

 本当にこんなテンションだった。これがルールなのか彼女の機転なのかわからないけど、こういうフレキシブルな人はいいなと思う。ヨーロッパ大陸の人は頑固そうだと感じていたから驚いた。ここでもまた勝手な思い込みをひとつ打ち消すことができた。大事なのは個人。彼女のおかげで、私たちは残っていたお金をきれいさっぱり片付けることができた。

 そうそう。ひとつ不思議に思ったのは、夜の両替所にいた店員さんが女性だけだったこと。たまたまのシフトかもだし、監視カメラ越しに見守られているのかもしれない。当時は、スウェーデンは危なくないのかなと考えていた。

 それを体験しに街に出てみたかったけど、今日の私たちには不可能。「携帯で呼び出して」とできたらよかったな。とは言え、私たちは駅内でご飯を食べてお酒を飲んでお菓子も食べてと安全に夜を過ごし、いよいよ出発する時間がやってきた。

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今日の場所は、Google My Map 大吟醸トラベル の112番。