純米@大吟醸

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大震災の日、私はHoly Fuckを聴いていた

 東京は震度4だったから起き上がりはしなかったけど、久しぶりに長い地震でドキドキした。そして、十年前の震災の日を思い出した。

 あの日、最初に大きく揺れた時、私はこの曲を聞いていた。

  Holy Fuck(ホリー ファック)のLovely Allen(ラブリー アレン)。

 あの日のことはいろんな意味でいろいろ忘れられない。

 

 私はその日、有給で家にいて、ネットで何か書いてたか調べていた。当時住んでたのはリノーベションされたマンションの高層階。外も中もきれいだけど耐震性が低かったらしく、むちゃくちゃ揺れて人生で初めて死を感じた。

(これは死ぬかもね)

 心の中で確かにそう思ったのを覚えておきたい。

 それだけじゃない。その時は当時の彼も家にいた。おそらくどこかに出かける予定だった。彼は遅いお昼を作るのにキッチンでガチャガチャやっていて、そして揺れた。

 私はこういう非日常時、意外と自分を差し置いて今すべき事に集中しがちな人だ。ベランダの植木鉢がガチャガチャ崩れ、家自体が聞いたこともない音をたてるのを聞きながら、ベランダ側の掃き出し窓、普通の窓、玄関を開ける、ガラス瓶に入った物を床に、割れそうな物は片付ける、などなど家中をバタバタとして安全確保に務めた。

 キッチンも同じ。火を止め、鍋でパスタかなんかを茹でようとしてたのかグツグツ沸騰してたお湯をシンクに捨て、まな板に置きっぱなしの包丁もシンクに投げ込み、テーブルに出てたお皿やコーヒーが入ったマグもシンクに置いた。そして思った。

(彼、どこ行った)

 体験したことがないレベルのやばい地震が起きている。たぶんまた来る。お風呂にお水は溜めてあっただろうか?こういう時はご飯炊きなさいと聞いた気がする。避難道具をまとめた方がいいか。そういえば親は大丈夫か。物が割れたらまずいから靴を履こうか。

 手どころか心臓が震えて怖くて仕方がないのに、無理やり手と脚を動かしていたその時、なんとその男は我が家で一番頑丈そうで大きいテーブルの下に隠れてた。小学生の避難訓練で習ったそのままを実践していた。

(この男は彼氏だっただろうか)

 急速に心が冷えていくのを、かなりハッキリと感じたのを覚えてる。自分だけが安全ならそれでいい人。いや、人間なんてたぶんそれでいいのだと思う。自分の身をしっかり守って、幼い頃に訓練した成果を出して。だけど私は思った。

(ないわ、この人)

好きだったし、不満も何もなかったから、あのままいたらあの人と結婚していたかもしれない。だけど今となっては、震災が起きた3月11日に毎年この人のことをこうして思い出さないとならないことが悔しい。

 本性を知って目が覚めた私は彼なんかほったらかして、テレビでネットでどこで何が起こっているのかを調べた。ほとんどすべての日本人は大混乱でそれどころではなかったようで、最初に連絡をくれたのは海外にいる友達からだった。メールで安否確認と心配が綴られたメッセージがガンガン来ていた。心配してくれてありがとう。

 そしてTwitterを開くと、Holy Fuckのアカウントが地震が起きた日本を案ずるメッセージが目に入った。今ちょうど聴いてたのとおかしなシンクロに感動して、うれしくてたまらなかった。例え社交辞令であっても全然構わない。

 なすすべなく死ぬなと思ったあの感覚と、残念な人の本性を見た瞬間の気持ちを忘れずに、毎日を大切にしっかり生きていこうと思った。だからその後、驚くべき早さで避難訓練男とはさよならをし、新築で耐震性が高く低層のマンションに引っ越しをした。