純米@大吟醸

美しいと楽しい、旅と音楽と日々のこと。

71:サソリに刺されたかもしれない思い出

  • 包丁で刺された?
  • 腕丸ごと一本真っ赤に
  • ウナコーワ強い

 それは未知との遭遇だった。

 目覚めて顔を洗おうと洗面台の前に立ったら、右腕に激痛が走った。腕が上がらない。

(腕に包丁が刺さってる?)

 のかと本気で思ったほど。包丁は日本の出刃包丁。そんなのアリゾナにないよと自分に突っ込む余裕はあったけど、とりあえず痛かった。次に私が思ったのは、

(さすがアメリカの虫は強力だな)

 思い返してもマヌケだな。ブヨやダニ系の虫に刺されたことを想像した。刺された場所を探したら、手首にそれっぽいものも見つかったし。なのですぐに、持ってきていたもろこしヘッドのウナコーワを塗るという処置を施す。虫刺されにはこれでしょと私の脳が言っていた。

 その後、腕はどんどん痺れて真っ赤になった。でも腫れはない。気になるたびにウナコーワを塗りたくる。だけど、私の処置も虚しく、お昼になる頃には右腕一本丸々真っ赤になった。何これ、こんなにじょどくなるなんてどんなブヨなんだろう。そう、まだブヨだと思ってた。とりあえず、ウナコーワを塗り塗り。

 その日は知り合いと映画を観に行く予定だったから、赤い腕を隠すためにカーデガンを羽織った。外は暑いけど、家の中と商業施設の中と車の中と屋内はとにかく極寒だったアリゾナ。長袖を着ていても変には思われない。でも一応、痛い以外に例えば気持ちが悪くなってきたりしたら病院に行こうと思ってた。私にとっては、それくらい未知の事態。そんな人騒がせな虫刺されはウナコーワを塗りたくり続けること半日。夜には痺れも赤みも引いてしまった。

 しかし事件は再び起こった。泊まっていたのは知り合いの家だったのだけど、夕方帰宅したその家の中学生が家でサソリを捕まえたと言い出した。サソリはクワガタみたいに掴むと危ないので、ビンを上に被せて揺らし、ビンの中に落として捕らえるらしい。子供はその武勇伝に興奮していたけど、私は別のことで顔が青くなった。サソリが見つかったのは、私の部屋の前の洗面所があるバスルームだったから。

「えっ、まさか私、サソリに刺された?」

 捕獲したサソリを見せてもらったら、よくイメージする黒光りしててぶっとい尻尾を持つタイプではなかった。透明で細くて全長は3cmくらいかな。成虫でないのか、こういう種類なのかはわからなかった。もっと聞けばよかったな。

 翌日、起きたことを現地に住む日本人の知り合いに話したら「サソリに刺されたら死んでるよ!」と一蹴された。うん、私もそう思う。でも家にサソリが出るなんて初体験だったから。その子とは一緒にグランドキャニオンに行って、途中のフラッグスタッフのガソリンスタンドで疑惑のサソリを見せることができた。併設するお店でお土産を見た時。

「家にいたの、こんなサソリだったよ!」

 見つけたのは、ガラスの中にサソリが入った文鎮。黒いいかにもなサソリから、家に出た透明な小さいサソリまでバラエティ豊富。こんなにいろんな種類があることを知った。そして、それを見た知り合いは

「これだったらあるかも……」

 と私がサソリに刺されたかもしれないと認めてくれた。

 ぶっちゃけ本当は何に刺されたのかはわからない。だけど、私はこんな感じで日本の大衆的な虫刺され薬、ウナコーワで一命を取り止めることができた(大げさ)。私がウナコーワを持っていたのは、友達のお姉さんがイギリスの田舎に留学したものの、何かの虫刺されが悪化して入院し帰国を余儀なくされたことがあったから。ムヒでもキンカンでもなんでもいいと思う。

 使い慣れた薬を持っていることはとても重要だ。それを改めて教えてくれたできごとだった。痛かった。

今日の場所は、Google My Map 大吟醸トラベル の71番。