純米@大吟醸

美しいと楽しい、旅と音楽と日々のこと。

あの、まずいカレーコロッケをもう一度

 写真はじゃがいもコロッケ。近所の揚げ物屋さん、ではなくお豆腐屋さんで買った。厚揚げを作る油があるから、ついでに揚げてるのかな。

 食べながら思い出した。私には大好きなコロッケがあって、それをもう二度と食べられないことを。

 それは祖母の家の近くのお肉屋さんのコロッケだった。昔ながらのお肉屋さんで、カウンター越しに買いたい数を言うとおじさんが揚げてくれて、熱々の袋を抱えて帰る感じ。祖母は私たち孫が来ると美味しい物をたくさん作ってくれたのだけど、その食卓に最後に添えるべく「そうそうコロッケも買ってきなさい」と私たちにお手伝いを頼んだ。

 コロッケは普通のタイプより細長いワラジ型で固い。衣が特別厚かった記憶はないが、サクサクよりハイレベルな歯ごたえがしっかりあった。そして、なんとカレー味。他にじゃがいもコロッケや牛肉コロッケがある訳ではなくて、デフォルトがカレー味。気軽にかじれるのが魅力のコロッケなのに、カレー味にしたらそれだけで買うお客が減るのにいいのかな。子供ながらにそんなことを思ってた。

 カレーの味は大人のカレーで、ちゃんとしっかり辛めだった。主張が強い固めの衣と合間って、スルメのような噛めば噛むほど味が出る珍品だった。それで確かたったの60円くらい。私が買いに行く時はたくさん揚げてもらったから、おじさん大変だったろうな。

 そんなこんなで祖母の家に行くたびに食べていたカレーコロッケだけど、ある時突然食べられなくなってしまった。突然だったのは、私が実家を離れてしまったから。年に2度しか帰らなくなり、気づいたらおじさんはお肉屋さんを店閉まいしていたのだ。

 お店が他の店になったり、更地になって思い出す術がなくなっていたらマシだったのかもしれないけど、おじさんの家は今でもそのままの佇まいで1階のお店部分を閉めたまま存在している。おじさん家族も住んでいる。だから、祖母の家に行けば今でも食べたいと思うし、この際作り方を教えてくれたらいいのにと思ってしまう。

 あのカレーコロッケが食べたい。

 でも、そういえば私は一度もおじさんに「美味しいです」とか「カレーコロッケ大好き」と言ったことがない。

 おじさんが言われてうれしかったかどうかはわからないけど、できなくなってから残念に思うくらいなら素直に伝えておくべきだと思った。

 その後、祖母の家から少し離れたところに旅行ガイドにも載るような有名なコロッケ屋さんができたのだけど、私は未だその店には行ってない。私にとってあの辺でコロッケといえば、おじさんが作るのっぺりとしていて固いカレーコロッケだからだ。