純米@大吟醸

美しいと楽しい、旅と音楽と日々のこと。

35:マルメの思い出

  • いつ到着するかわからない
  • ビールの差し入れ
  • マルメとマルモ

 前回出発したヘリシングボリはHelsingborgと書く。表記はあってるのかわからない。さらに、私はこの後の時間軸をよく覚えていない。こういうことを細かく書いておけばよかった。どうせ時間はたっぷりあったのだから。

 定刻よりだいぶ遅れて出発に至る。一緒に同じ電車に向かったお客の数は少ないと感じた。車両数は多いのだけど、その少ない乗客はいくつかのまとまった車両に割り振られた気がする。夜発だったのもあるのかな。日本の高崎線みたいな部屋になっていないタイプだった。車掌さんは二人いて、ドイツ語とスウェーデン語が必須らしい。片方の人のみが英語が話せたので、私はその方から情報得た。長時間の乗車ではないから大丈夫でしょう。

 だけど、そうは問屋が卸さない。車掌さんは二人で挨拶に来てくれて、朗らかな笑顔で言った。

「はっきり言って、いつ到着するかわからないの。でも皆で楽しみましょうね!」

 こういうの好き。さらに乗り合わせた人たちも

「オッケー!じゃあ私がキャプテンよ!」
「イエーイ」

 みたいに盛り上げあっていた。おばさまとおじさまと私たちみたいな若者。こういうことは日本人同士だとなかなか起こらないと当時の私は思った。その後、再び車掌さんが来た時はさらにビックリ。手にビールと食べ物、お菓子を持っていて皆に配ってくれたのだ。

「差し入れよ。飲んでね!」

 先が長くなるからとのことだった。乗客はおそらくそこまでの食料なんて持っていない。これがルールなのかもしれないけど、すごく楽しかったしうれしかった。

 しかし、瓶ビールを開けるための栓抜きがない。電車の窓枠の角で映画みたいにかっこよく開けようとしたけどできなかった(たぶん、やっちゃダメ)残念に思っていたら、近くに座っていた男子大学生が来てフタをキュッとひねって開けてくれた。日本人は“瓶ビールには栓抜き”のイメージにとらわれ過ぎた。そんな旅。

 列車はさらに進んで、プラットフォームしかないような田舎の駅に停車した。マルメ付近だったと思う。マルメは九十年代の洋楽を聞いていた人は絶対に知っている地名で、ザ カーディガンズというポップバンドの女性ボーカルとそのプロデューサーであるトーレ ヨハンソンさんの出身地なのだ。生涯行くことがないと思っていた主要都市でもなんでもない街(失礼)を見られて気分が上がった。

 この地名のことも、当時は勝手に“マルモ”と呼んでいたな。だって点々が付いただけでeになるなんて知らない。北欧の言葉を勉強するのも素敵かもと今でもずっと思っている。

 そうそう、その駅で普通車両に乗っていた全員が寝台付きのコンパートメント車両に移動するように指示をされた。枕もお布団もあるお部屋タイプの客室。まともに乗ったら相部屋になったりするのだろうけど、この時は他に乗客がいなかったから、のんびりダラダラ過ごしてしまった。

 マルメ付近から夕暮れだった気がする。時間が変と言ったのはこのせい。広い大地にあまり何もなくて、空と土と枯れた葉っぱの殺風景な景色が続くなかで「これがマルモなのか」と思っていた。時間を覚えていないなんてなんでだろう。止まっては動き、止まっては動きのノロノロ運転。その繰り返しでは困る日程の方もいるようで、外が暗くなった頃には下車を決める人たちに遭遇した。

 耳に入ってくる日本語の会話。ここまで日本人にまったく会わなかったからうれしかったのだけど、あまり気さくな方々ではないようで世間話をすることもなく別れた気がする。年がだいぶ上だったからだろうか。日本人にもいろいろな人がいると海外に来て思った

 思ってもみなかった長旅になり、のんびりが過ぎると眠くなった。友達は神経質気味で寝るのに苦労していたけど、私はどこでも眠れた。完全な夜になった後は途中、暗い窓の外が風でゴーゴーという音を出し始めたり、列車が止まっていたりするのを感じていた。でも私はグッスリ爆睡。旅に必携の耳栓なんてまったく不要だった。

 そして目覚めて、ミッション インポッシブルのテーマが流れ始めた。

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今日の場所は、Google My Map 大吟醸トラベル の35番。