純米@大吟醸

美しいと楽しい、旅と音楽と日々のこと。

109:トレレボリの思い出

  • 目覚めてそこは
  • 電車ごとフェリーに乗る
  • 甲板にぶち当たる波

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 初めての寝台車でも私は平気で爆睡し、快適な眠りから目を覚ました。だけどおかしい。電車は停止しているようで、車内もシーンとしている。みんな、まだ寝てるのか。

「どこだろう?なんだか車庫みたいなところにいる」

 これが窓の外を見て最初に思ったこと。

 お腹空いていたし、トイレに行きたいし、お風呂にも入りたい。電車を降りていいのか、というか今どこなのといろいろドキドキする。電車に友達を残し、出発する時は待ってもらうようにお願いして、私は外に出た。近くに扉が見えたから探ってみようと思ったのだ。

 薄暗い車庫風の場所を歩いていると、同じことを考えたらしい女の子に会った。欧米系の顔立ちをしているこの人でも状況はわからないらしく、一緒に探検してみることにした。ドアを開けて階段を登ってみる。その時、私たちの気分はもう、スパイ映画の主人公。ミッション インポッシブルのテーマ曲が頭の中で鳴り始める。

 階段を登り終わると地図があった。私でもわかる、明らかな船室のレイアウト。辺りを見回すといかにも船っぽい丸い窓もあった。その時、上の階から賑やかな音といい匂いを察知。こうなったらとことん行こうと、私たちは上を目指した。

 そこで目にしたものは、

「あら、お目覚め?シャワーでも浴びて、食事してて。今日もいつ出発できるかわからないの」

 例の英語を話せる車掌さんがいた。とっくに起きていて、優雅に朝ご飯をお召し上がり中のご様子。そう、そこは船の中のレストランやラウンジなどがあるフロアだった

 えっ?どういうこと?

 なんで船に乗ってるの?

 そのソーセージおいしそうなんだけど。

 もしかしたら、寝ている間に案内があったのかもしれない。いや、ないよな。向こうの人にとっては普通のことなのかな。何もわかっていないけど、ひとまず友達のところに戻ることにした。

 マルメの次の記憶の地。目が覚めた自分がいたのは、スウェーデンの南端(という言い方でいいのかな)トレレボリという港だった。

 今、同じ事態に遭遇したら即Google Mapを開く。ここまでの短い電車旅で、海外には日本のような鮮明な声での駅名アナウンスがないことを理解していた。だから、いつでもどこでもたいてい現在地がわからない。たまに小さくある駅名のプレートのつづりを覚えるか、車掌さんがいる時に聞いてみるか。今回は後者で現在地を特定できた。

 改めて時刻表を見ると、私が今いる区間には五ミリ四方くらいの小さい船のマークが付いていた。これが「フェリーに乗る」の意味らしい。民間人の車を乗せて運ぶフェリーの存在は知っていたけど、電車をまるごと乗せるとは思わなかった。だって海外の電車は車両数が多くて長いから。

 みどりの窓口のおじさんが言う「電車で行ける」は、「途中の海は電車ごとフェリーに乗せて渡る」も含まれることを知った。現状を想像できずに恐る恐るドアを開けた、あんなドキドキスパイごっこもしなくて済んだな。ただ、今はGoogle Mapを見たらもうこの付近には橋がかかっている。電車も通ってるみたいから、この区間の船旅はもうなくなっているかもしれない。

 私たちは車掌さんに言われたとおりシャワールームですっきりして、レストランで朝ごはんを食べた。すごくボリューミーで肉肉しいプレート。おなかがいっぱいになった後は船内でひたすら暇を潰す。出発する時はまた放送で案内してくれるらしい。

 そこで甲板を見に行った。

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 なかなか広い甲板だけど、柵にはザッパンザッパン波が打ちつけていた。そこでヘルシングボリで言われた“シケ”を思い出す。うん、わかった。これでは海を渡れない。

 船内には両替所があるし、免税店もレストランもいくつか。バー、ビリヤードの部屋、だらしない体勢で映画を観られる部屋なんかも充実してて、何も困らなかった。そんな中で上映していた映画は『マトリックス』と『タイタニック』。後者はやめてと思ったな。

 目の前の海が何海かも知らなかったけど、本当に海しかない。天候が落ち着いた後はたいした揺れもなく、ウトウトしている間に海を渡りきっていた。

 今日の旅の場所は、Google Map 大吟醸トラベルの109番。

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