純米@大吟醸

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74:飛行機に落雷した思い出

  • 衝撃と落下
  • 死を覚悟
  • 日本人の機長さん

 人生で死を覚悟したことが二回ある。ひとつは東北大震災の時。そして、もうひとつは今回の話。

 ある時、私は北米のどこか行きの飛行機に乗っていた。季節も連れのあるなしも忘れた。ただし、航空会社がかなりの確率でユナイテッド航空だったこともかろうじて覚えている。

 事が起きたのは、出発してかなり時間が経った頃だった。もう半分くらいは太平洋を渡っていただろうか。機内の照明が点いていたかどうかは定かではないけれど、食べ物や飲み物はテーブルに出ていなかった。寝ている人もいるけど、大陸からのお客がうるさい。そんなよくある感じの日本発便の機内だった。

 私は本か雑誌を読むか、何か書き物をしていたと思う。真ん中の列だったから外は見えず。「揺れるからシートベルトを着用してください」のアナウンスが流れたからシートベルトは着けていて、よくあるレベルの揺れの中でくつろいでいた。そんな時だった。

 ドカーーーーーーーーーーーン!!!!!!

 飛行機がものスゴイ衝撃を受けた。でも、この瞬間はまだ「たまたまスゴイ揺れに当たったんだな」と思っただけ。さらに次の瞬間から飛行機が急降下を始めたけれど、それもまたいわゆる乱気流に遭遇している程度のものだと思ってた。

 機内の様子が変わったのはその直後。飛行機の急降下が止まらない。飛行機が落ちる時は頭から突っ込むのだと思っていたのだけど、その時は水平を保ったまま下に落ちていくの感じていた。例えるならば、タワーオブテラーか水泳で飛び込む時の腹打ちか。

 揺れても急降下しても飛行機は持ち直すものだと思っていたのに、この時は落下が止まらない。どんどんどんどん下に落ちていって、その長さは体感で三十秒を超えていた。たぶん実際はそんなに長くない。だけど、その時の私にはそのくらい永遠のように感じられたのだった。

 機内は凄まじかった。衝撃を受けた瞬間は、当然が如く大陸からのお客がうるさかった。でも落下が長くなるに従い誰も話さなくなって、やがて機内は何も音がしなくなった。

 シーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン

 こんな感じ。

 「いやいや大丈夫でしょ」と全然気にしていなかった私も機体が持ち直す気配なく落ち続けていることを把握すると、「これマズい」「死ぬな」と思った。だからと言って私個人にできることは何もなく、途中でなんだか笑えてきた。

 どれくらい落ちたかはわからない。結局、ようやく落下は止まって飛行機は安定した。いったい何があったのかザワつくお客たち。乱気流なのか、事故なのか、機体不良なのか。飛行機は何事もなかったかのように飛行を続ける。そんな時に機長のアナウンスが入った。

「ただいま、当機に雷が落ちましたが、機体に異常はございません」

 はっ?

 飛行機って雷落ちても平気なんだ。

 細かくは違うと思うけど、機長さんはこんなこと言った。ちなみに日本の方だった。日本語、英語でのアナウンスがなされるとザワザワ。最後に中国語のアナウンスがあるとギャーギャー。機内は再びものすごく騒々しくなった。

 それでも飛行機は当たり前に定刻どおりに到着し、降りる頃には乗客は雷のことなんて忘れてた。すごいな。自分で落雷を経験したのは、あの時ただ一度だけ。飛行機に雷は落ちないことは知っていたけど、あんな衝撃を受けたのに何のダメージもないとは思っていなかった。

 機長さん、嘘つかない。