純米@大吟醸

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51:ロカ岬の思い出

daiginjo travel portugal Cabo da Roca

リスボンからロカ岬へ

 ロカ岬というのはCabo da Rocaと言って、ユーラシア大陸の最西端にある岬だ。リスボンから電車でシントラかカスカイスという西側の街まで行き、その後はバスに乗る。たぶんカスカイスだったと思う。メモにも残っていない。また行ける時が来たら、車で行こうと思う。公共の交通機関にはこの時にたくさんお世話になったし、今度は気になる場所で止まったりして。Google Mapがあるから、どこでも困らない。

 だけど、電車に乗ろうとリスボンの駅に行くなり、様子が不思議なことに気づいた。巡回していた軍の方が言う。

「今日、この駅は閉鎖だよ」

 意味が全然わからない。日本でそこそこ大きな駅が閉鎖になるとしたら、ニュースになるレベルの事件が起きた時しか思いつかない。でも、その時の駅にそんな雰囲気はなくて、人々は当たり前のように通り過ぎて、どこかに向かう。普通にあることなのか、大規模なリノベーションを市全体で行っていた時だったのかはわからない。軍人さんが親切に目的地に着ける駅を教えてくれたので、それに従った。

 車で行きたいと行ったけど、この時の電車とバスの旅は風光明媚だった気がする。普通のボックス席の電車、路線バスと観光バスの間くらいのバス。ロカ岬に近くに連れて観光客は増えるのだけど、両側の景色は『アルプスの少女ハイジ』みたいになってくる。真冬なのに緑で小さな花がポツポツと。同じ季節なのに、ポルトガル北ヨーロッパと比べて暖かかった。真冬に行く沖縄みたい。それもまた行きたいと思った理由のひとつだ。

ここに地終わり 海始まる

 これは宮本輝さんが1994年に出した本のタイトル。私がロカ岬を知っていたのもこの本の影響による。友人が宮本輝さんファンだったこともあって、半ば強制的にたくさん読まされた。映画やドラマになっている話もあったし。そのせいか、私の中ではポルトガルと言えば、ロナウドよりも宮本輝だった。

 ロカ岬には大西洋に向かう形で断崖絶壁になっていて、そこに“ここに地終わり 海始まる”の詩が刻まれた石碑があるはずだった。上が十字架で、台が石造り。本の表紙に描かれていた。

 と、思っていたのだけど、画像検索したら表紙はてっぺんが赤い灯台だった。どうして勘違いをしていたんだろう。

 ダメ男を絵に描いたような主人公が人生に疲れてここに来て、絵葉書を出す話だった気がする。梶井という名で確かイケメン。絵葉書に十字架の塔が書かれていたのだろうか。読み直さないとわからない。

 しかも、この絵葉書は人違いで送られた物だった。本当の宛先は、訪問した療養所で見かけた美人。実際に受け取ったのは人生のほぼすべてを療養所で過ごす地味な女。今なら、ダメ男は生まれながらのダメ男だとわかるけど、思春期だったからそれなりには感情移入できたかも。宮本輝さんの話に出てくる人々は現実離れしているから、ほんの少しだけだけど。

ユーラシア大陸の西端

 「うわー、大陸の端に立ったぞ!」とは思わなかった。

 崖、その前に広がる海、打ち付ける波、地平線、天使のはしご。日本の西側を旅した時にもよく見られた光景だった。ヨーロッパ人らしき人々はもっと感動しているみたいだった。

 それよりも朗らかな岬の風景を好きになった。ここにも緑の草と花がたくさん生えていて、歩道は土のまま所々に不自然に大きな岩が放置されていた。そこに片足をかけて加山雄三さんのポーズをしたくなる。海辺だからそれなりに風もあって良い効果になる。そんな場所。

私の時はすっかり晴れていたけど、梶井の時は風が強かったのではないかな

とメモされている。当時は彼の境遇からそんな気がしていた。だけど、酸いも甘いもそれなりに知った今となっては、こんな場所まで来て強風や豪雨に晒されるより、きれいに晴れていた方がメンタルがやられてドラマチックだと思ってしまう。

 それでも、この小説の影響でこの地を訪れる日本人は多いのだろう。ポルトガルではほとんど日本人を見なかったけど、ここに行っている人の写真はたくさん出てきた。そして不思議。日本語の『ロカ岬』で検索すると石碑が、オリジナルの『Cabo da Roca』では赤い観光案内所が出てくる。宮本輝さんの本を読んだ日本人は、石碑の方が強く印象に残っているのだ。

 

今日の場所は、大吟醸トラベルマップの51番。

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