純米@大吟醸

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39:アムステルダムの思い出(その2)

 アムステルダムの街はそれほど大きい印象はなかったけど、計画されて作られたことがよくわかる。規則的に運河があって、最初に降りた駅を中心に放射線状に街が伸びる。空から見たらマンガに出てきそうな地図になりそうだけど、ヨーロッパにはこういう街が結構あった。

たいしたことじゃない精神

 私は生来きちんとした人。物はきれいに使うし整理整頓も好き。だから旅の途中で溜まるパンフレットやチケット類も都度処分していた。しかし、アムステルダムで事件が起こった。使い始めたばかりのユーレイルパスを真っ二つに破ってしまったのだ。

 ユーレイルパスは前払いの周遊パスだから、乗車時に基本的に運賃はかからない。しかし特にインターシティと呼ばれる都市から都市へと長距離を移動する時は、事前の席の予約が必要になる。予約をした後には座席番号が入ったボーディングパスが手渡される。昔の飛行機の搭乗券みたいなやつ。到着して不要になったそれとユーレイルパスを勘違いして、捨てようと思ったのだと思う。

 破り終えた瞬間にやらかしたことに気づき、一瞬パニックに陥った。なんとなくだけど、破損したら無効だと思った。世界的潔癖日本人的な考え方なのはわかってる。困った私はユースホステルの受付のお兄さんにセロハンテープを借りる。お兄さんは「そんなの大丈夫でしょ」とニコニコしながら、きれいに復元した私の腕を褒めてくれた。

 後日、破れた後に初めてユーレイルパスを使う時は緊張した。車掌さんに手渡してチェックしてもらうから。相手も日本人であれば、偽造を疑われたり文句を言われるはず。でも今日も平常運転とばかりに知らん顔をしていた。

「どうもありがとう、マダム」

 その瞬間に心の中でフーーーーーーッと息を吐く。その後も一度もテープで貼り付けられたパスに文句を言う車窓さんはひとりもいなかった。完璧でなくていいということを、私はこの時に学んだと思う。

 そうそう。ヨーロッパではアメリカと違ってMs.と呼ばれない。なぜかマドモアゼルでもなくマダムだったのが不思議。この時は若者だったし、アジア人は見た目も肌も若い。どういう基準なのだろうか。マダム以外で呼ばれることがない歳になって、あの時もっと詳しく聞いてみればよかったと思っている。

マリファナ天国

 アムステルダムが快楽万歳な街であることは知っていた。街も浮かれている感じ。たいして広くない路地や角に人がワラワラとたむろしていて、マリファナの匂いが漂っていたのが思い出される。浮かれているのはそのせいだろうか。

 私たちも歩いているだけで「コレいる?」と手で合図される。その人数があまりに多いので面倒になってしまい、アンネ フランクの家に行きそびれたことを覚えている。そこで私たちは代わりにタバコを持って、「タバコがあるからいらない」とジェスチャーで応えた。そうしている人を見て真似しただけ。

 日記には運河クルーズをしたと書いてるのだけど、そんなの本当にしたのか思い出せない。いろいろな場所で気が向くとクルーズしてきたけど、アムステルダムの運河は道頓堀みたいなイメージ。それでも街を下から見るのが楽しかったこと、船頭(?)のおじさまがいい人だったことが日記に書かれている。

 今調べたら、隅田川のヒミコみたいなデザインの船だ。そんな物に本当に乗ったのだろうか。覚えていない。

まさかのゴッホ美術館で

 こんな感じで大人の世界の衝撃を受けたアムステルダムだけど、最大の衝撃は美術館で起きた。美術館は広々とした芝生の公園の一角にあった気がする。遊ぶ親子がたくさんいて、美術館自体は現代的な建物だった。ゴッホは私が好きな画家のひとり。せっかくだしと、好きかどうかはわからない友人を連れて行った。

 中はもちろんゴッホゴッホゴッホ。日記には「有名な作品がたくさんあった」と書いているけど、具体的に何だったかは覚えていない。それよりも膨大な歌川広重のコレクションが所蔵されていることは知らなかったので、そちらにビックリした。相変わらず予習が足りない私。

「七夕と梅のがよかった」

 らしいけど、それもどれだかわからない。

 貸し出されている絵もなく、全体をたっぷり見られたと思う。訪れた時に他の美術館に行っていたりするとショックだから。こんな風に展示を堪能して、最後にミュージアムショップに行った時、いよいよそれが起こった。

 そこにはゴッホに関するあらゆる本があって、私はその中から大好きな『夜のカフェテラス』が表紙に使われてた本を手に取った。パラパラとページをめくって解説を読むと、なんとこの絵がオランダにあることがわかった。アーンヘムという街のクローラーミュラー美術館。本当はアーネム(Arhem)のクレラーミュラー美術館(Kröller Müller Museum(笑)。私の英語読みがまたしても炸裂した瞬間だった。「ö」がeの発音になるのがわからない。

 私はこの絵のことを勝手にオーストリアのどこかにあると信じ、一生自分の目で見ることはないだろうと思っていた。日本にも来ていなかったし。だから行きたいと思った。だって、今オランダにいる。次にすぐ来るとは思えない。

 勢いで店員さんに尋ねるとアムステルダムから電車で一時間ほどで行けることがわかった。行こう。友達が行くことに賛成してくれた。ドキドキした。

 今日の場所は、大吟醸トラベルマップの39番。

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